空の色が全員違って見える世界のお話¦


 空を見上げる。僕の目に映る空は青い蒼い透き通る空だ。
 空を見上げる。私の目に映る空はオレンジに薄いピンクが混じった暖かい空だ。

 ある日、あの子が遠い目をして空を眺めていた。声をかけようとあの子の前に立ったが、その目はまるで僕を見ていなかった。不安を覚えた僕は、彼女の手を包み込むように握った。
 すると僕の見える世界が一瞬にして変わった。黒い霧がするすると青い空を覆い尽くし、闇色へと変容させたのだ。心做しか、見える全てが暗く哀しく見えた。
 僕たちの世界では空の色は人によって少しずつ違って見える。それは視覚異常ではなく、人それぞれ心や気持ちや考え方が違うからだと昔誰かが言っていたのを聞いたことがある。これはそれぞれ干渉し合うことはあまりないそうだが、あの子の場合は何かが取り憑いてるかのように、他者へ影響するほど規模が大きかった。
 僕は何とかして彼女をこの冥い世界から救い出そうとした。しかし、解決の手段が思い浮かばなかった。世界を崩す方法。それは───。

 「君の見ている世界は君だけの世界じゃない。僕も一緒に巻き込んで。君の苦しみは君だけの苦しみじゃないし、君の幸せは君だけの幸せじゃない。そこには僕もいるんだ。思い出して、そして忘れないで。」

 あの子の目に光が差し込んだ時、空には虹が架かっていた。

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